
はじめに:なぜ今、トランプは中国へ向かったのか
2026年5月13日夜、トランプ米大統領が北京に到着しました。アメリカ大統領による中国訪問は実に9年ぶり。習近平国家主席との対面会談も約6カ月ぶりとなります。
「非常に良い会談になるだろう。習主席と話しました。私たちは会談を楽しみにしています」
親指を立てて大統領専用機「エアフォースワン」に乗り込んだトランプ氏。その表情からは自信がうかがえますが、この訪問の背景には、アメリカが直面する深刻な問題が横たわっています。
それが「イラン情勢の行き詰まり」です。
本記事では、今回の米中首脳会談で何が話し合われるのか、そしてそれが世界にどんな影響を与える可能性があるのかを、わかりやすく解説します。

1. 停戦交渉は「生命維持装置」状態:泥沼化するイラン情勢
交渉決裂、軍事行動再開の可能性も
トランプ大統領は5月10日、イランからの停戦回答を「ばかげている」と一蹴しました。そして翌11日には国家安全保障チームを招集し、対イラン軍事行動の再開について協議したと報じられています。
「停戦は生命維持装置につながれた状態にある(on life support)」
トランプ氏自身がこう表現するほど、イランとの和平交渉は危機的状況です。

原油価格高騰という副作用
イラン情勢の緊迫化は、ホルムズ海峡の安全を脅かしています。この海峡は世界の原油輸送の要衝。封鎖や紛争が起きれば、原油価格は急騰し、アメリカ国内の物価高がさらに悪化します。
実際、トランプ政権の関税政策によってすでに株価は急落し、2025年第1四半期のGDP成長率はマイナスに転じました。支持率も低下傾向にあり、11月の中間選挙を控えたトランプ氏にとって、イラン問題の解決は待ったなしの課題なのです。
2. 中国に頼らざるを得ない?トランプの「ジレンマ」
「助けは必要ない」と強がるも…
トランプ大統領は記者団に対してこう語りました。
「イランに関して助けが必要だとは思わない。平和的に、あるいはそうでなくても、われわれは勝つ」
しかし専門家の見方は異なります。明海大学の小谷哲男教授は次のように分析しています。
「イランとの協議がなかなかうまくいかないので、ホルムズ海峡開放に向けて、中国に対してイランにいわば圧力を掛けるという協力を要請することになると思います」
なぜ中国なのか?
中国はイランにとって最大の貿易パートナーです。イランの原油の主要な買い手でもあり、経済的な影響力は絶大。アメリカ単独では動かせないイランに対し、中国が圧力をかければ状況が変わる可能性があります。
つまりトランプ氏は表向き強気を装いつつも、実際には中国の協力が必要な状況に追い込まれているのです。
3. エアフォースワンに乗り込んだ「重要人物」の正体
16人の企業トップが同行する意味
今回の訪中で注目されているのが、トランプ大統領に同行する16人のアメリカ企業トップたちです。
- イーロン・マスク(テスラCEO)
- ティム・クック(アップルCEO)
- その他、航空宇宙、金融、農業など各分野のリーダー
そして、最も重要な人物が給油地のアンカレジで合流しました。
エヌビディアCEOの参加が意味するもの
ジェンスン・フアン(エヌビディアCEO)——この名前にピンと来る方もいるでしょう。
エヌビディアは、AI(人工知能)処理に特化した半導体チップで世界市場を席巻している企業です。このチップは今や世界中で争奪戦となっており、中国も喉から手が出るほど欲しがっています。
小谷教授はこう指摘します。
「これが意味することはエヌビディアの最先端の半導体チップを中国に売る可能性が出てきた。これまでアメリカの技術に関する対中政策を大きく転換する可能性があると思います」
つまり、トランプ政権がこれまで続けてきた対中ハイテク規制を緩和し、最先端技術を中国に売る「ディール(取引)」を目論んでいる可能性があるということです。
4. 取引の代償:台湾が「捨て駒」になる可能性
中国が求める対価とは
中国がイラン問題でアメリカに協力する見返りに何を求めるか——その答えは明白です。
台湾問題です。
小谷教授は次のように警告しています。
「中国は台湾の独立に反対すること、台湾への武器売却を停止することをアメリカに求める可能性があるとみています」
トランプ氏は台湾を守るか?
さらに小谷教授はこう続けます。
「トランプ大統領は台湾が民主主義であることに価値を見出していないので、イラン問題、ホルムズ海峡問題で中国からの協力を得られるのであれば台湾に対する政策を変える可能性は否定できないと思います」
トランプ氏は「ディール(取引)」を何よりも重視する大統領です。イラン問題の解決と引き換えに、台湾への支援を弱めるという選択肢も十分にあり得るのです。
5. 今後のシナリオ:3つの可能性
今回の米中首脳会談の結果次第で、世界情勢は大きく動く可能性があります。考えられるシナリオは以下の3つです。
シナリオ①:米中協調でイラン問題解決へ
中国がイランに圧力をかけ、停戦交渉が進展。ホルムズ海峡が安定し、原油価格が落ち着く。アメリカ経済にもプラス。ただし、代償として台湾への武器売却が停止される可能性。
シナリオ②:取引決裂、軍事行動へ
中国との協議がまとまらず、トランプ政権が対イラン軍事行動を再開。ホルムズ海峡情勢がさらに悪化し、世界経済に深刻な影響を及ぼす。
シナリオ③:半導体ディール成立、米中関係改善
エヌビディアのチップ輸出が解禁され、米中のハイテク協力が進む。一方で、アメリカの同盟国(日本、韓国など)や台湾は不安を抱える展開に。
まとめ:11月中間選挙を前に、トランプの「賭け」
トランプ大統領にとって、この訪中は大きな賭けです。
イラン問題を解決できなければ、原油価格高騰と経済悪化が続き、11月の中間選挙で共和党が大敗する可能性があります。すでに支持率は低下傾向にあり、時間的余裕はありません。
一方で、中国との取引を優先しすぎれば、台湾や同盟国からの信頼を失い、アメリカの国際的な地位が揺らぐリスクもあります。
「平和的に、あるいはそうでなくても、われわれは勝つ」
トランプ氏の強気な発言の裏には、複雑な思惑と厳しい現実が渦巻いています。
5月14日の米中首脳会談で何が合意されるのか——その結果は、アメリカだけでなく、日本を含む世界中に影響を与えることになるでしょう。
引き続き、この歴史的な会談の行方を注視していく必要があります。
【参考情報】
- ロイター通信 2026年5月12日報道
- テレビ朝日ニュース 2026年5月13日報道
- ロイター通信 2026年5月11日報道
