道内の現場を飛び回って20年以上。電気工事の仕事をしていると、怒鳴り声のひとつやふたつは日常の風景だ。
「危ない!」
「そこじゃない!」
安全を守るためのその声は、職人の現場に染み込んだリズムのようなものだとも思う。
でも、正直に言う。「怒鳴り」を使えば何でも通るという時代は、とっくに終わった。
大卒3年以内の離職率30%、高卒では40%超、
建設業界のこの数字は、業界の「文化」と呼ばれてきたものが、若手をどれだけ弾き飛ばしているかをそのまま示している。人手不足が深刻化する2026年に、怒鳴り文化を引きずったまま生き残れる現場は存在しない。
現場の怒鳴りには「2種類」ある
これは声を大にして言いたい。現場の怒鳴り声を一律に「パワハラ」と断じることも、逆に「現場だから仕方ない」と全て正当化することも、どちらも間違いだ。
① 安全上の緊急指示——これは「指導」だ
感電リスクのある電気工事現場、重機が動く建設現場。「そこ触るな!」「下がれ!」という瞬間的な大声は、命を守るための反射的な行動だ。厚生労働省の判断基準でも、業種・業態の特性による厳しい指示は業務上の必要性が認められやすい。電気工事・建設業はその典型だ。
② 感情のはけ口になった怒鳴り——これが「パワハラ」だ
納期プレッシャー、ストレスの蓄積、思い通りにならない苛立ち——これを怒鳴ることで発散する。「なんでこんなこともできないんだ」「使えない」「辞めてしまえ」。これは安全でも指導でもない。ただの感情攻撃だ。
| 安全指示の怒鳴り | パワハラの怒鳴り |
|---|---|
| 瞬間的・反射的 | 継続的・執拗 |
| 危険回避が目的 | 感情発散が目的 |
| 事実・行動を指摘 | 人格・存在を否定 |
| その場で完結する | 後を引き、繰り返す |
| 全員に同じ基準 | 特定の人間だけを狙う |
電気工事・建設業界でパワハラが起きやすい3つの構造的原因
問題の根っこを知らないと対策も打てない。
① 職人気質と「見て覚えろ」文化の残滓
「背中で教える」という美学は、教える側の説明能力の低さを正当化する言い訳に転化しやすい。技術の伝承と暴言は別物だ。「俺も怒鳴られて育った」という論理で次世代に連鎖させるのは、文化ではなく呪いだ。
② 納期プレッシャーが人間関係を壊す
電気工事の現場は工程が詰まっている。一工程の遅れが全体に波及するプレッシャーの中で、ストレスが怒鳴りという形で噴き出す。これは個人の問題というより、工程管理と人員配置の問題でもある。
③ 閉鎖的な人間関係と外部の目がない環境
現場は固定されたメンバーで動く。会社の人事部も、第三者の目も届きにくい。「現場の常識」が外の世界の非常識になっていても、誰も指摘できない構造が生まれやすい。
離職を防ぐ「現場で使える」指導の3原則
北海道の現場を飛び回って肌で感じてきたこと。職人の技術を次世代につなぐために、指導の方法を変えないといけない。
① 「行動」を指摘して「人格」には触れない
「そこの配線、順番が逆だ。もう一度やり直せ」
これは指導。
「なんでこんな簡単なこともできないんだ、センスゼロ」
これはただの人格攻撃で技術は一ミリも伝わらない。伝えるべきは「何が、なぜ、どう直すか」の3点だ。
② 「1回言えば足りる」を目指す
同じことを何度も蒸し返す説教は、法的にもパワハラリスクが上がる。それ以上に、現場の時間は有限だ。短く・具体的に・1回で伝える技術を磨くことが、指導者としての本当のスキルだ。
③ 「なぜ」を先に説明する
「こうしろ」だけでは若手は動けない。
「感電リスクがあるからこの順番で作業する」
「ここに電線を通すと後工程で問題が出るから変更する」
理由を先に言うと納得感が生まれ、同じミスが格段に減る。教えることで自分の技術の言語化にもなる。
「耐えるしかない」は本当か——今の業界に選択肢はある
ここだけは正直に言う。
現場の文化を変えるのには時間がかかる。自分一人で声を上げるのには限界もある。
そして心身が限界を超えてから動くのでは遅すぎる。
人手不足が深刻な業界だからこそ、理不尽な環境に耐え続ける必要はない。より良い待遇や安全な労働環境を求めるなら、専門職に強い転職エージェントで自分のスキルを高く買ってくれる会社を探すのが確実だ。
電気工事士・施工管理の有効求人倍率は5倍超、
スキルがある人間には、今この瞬間も選択肢が広がっている。
「業界の文化」と「法律」は別物だ
最後にこれだけ言っておく。
「現場はこういうもの」「職人の世界だから仕方ない」——その言葉で泣き寝入りしてきた人間が何人いるか。でも法律は業種を問わない。2020年のパワハラ防止法施行以降、建設業だろうと電気工事現場だろうと、悪質なハラスメントは法的に対処できる。
現場の誇りと、働く人の尊厳は、共存できる。それを証明している職場がこの業界にも確実に増えてきている。
📌 相談窓口
厚生労働省「総合労働相談コーナー」/ 建設業向け「建設業労働災害防止協会」各都道府県支部
情報源:厚生労働省「新規学卒就職者離職状況」/ 日本経済新聞「建設業人手不足調査2026年1月」/ elecareer.com「電気工事士とパワハラ」(2025年7月)


