
ナフサって、結局なに?
ナフサ(粗製ガソリン)は、原油を蒸留して取り出される無色透明の油。沸点はおよそ30〜200℃で、ガソリンの一歩手前の存在だ。一般家庭で直接使うものではないが、実は私たちの暮らしの「ほぼ全部」がコイツでできているといっても過言ではない。
ENEOS「石油便覧」や石油連盟の公式情報によれば、ナフサの最大用途は石油化学原料(ペトケミナフサ)。ここからエチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン・トルエン・キシレン(BTX)といった基礎化学品が生まれる。
一般的に多く使われているのは「軽質ナフサ」と「重質ナフサ」
ナフサは沸点で分けると主に2タイプ。
軽質ナフサ(ライトナフサ):エチレンやプロピレンを作る分解原料。プラスチック、合成樹脂、合成繊維の出発点。一番出番が多い。
重質ナフサ(ヘビーナフサ):改質してベンゼン・トルエン・キシレン(BTX)に。塗料、接着剤、医薬品、農薬の原料へ。
このうち石油化学向けが圧倒的シェアで、残りがガソリン基材や溶剤として使われる、というのが日本の実態だ。
困る業者はココ──「ナフサ依存度」が高い3業種
帝国データバンク(TDB)が2026年4月に公表した「ナフサ商流」動向調査が衝撃的だった。集計可能な約4,700社のうち67.2%・3,148社がナフサ依存度の高い業種に集中しているという。
特に影響を受けやすいトップ3はこうだ。
①化学・石油・石炭製品製造業──プラスチック、合成繊維、医薬品、農薬の原料を作る「環式中間物製造」では依存度なんと88.4%。ここが止まれば下流の全産業が止まる。
②ゴム製品製造業──タイヤ、工業用ゴム、医療用チューブ。石川県の「ゴム入織物」工場なども既に悲鳴を上げている。
③プラスチック製品製造業──食品包装、家電部品、自動車内装、建築資材。値上げ交渉に追われる中部の中小メーカーは「また値上げ交渉か」と嘆く(日経報道)。
そして見逃せないのが、影響を受ける4.7万社のうち約9割(4万1,417社)が売上高1億円未満の中小企業だという点。価格転嫁できない零細・中小ほど、ボディブローのように効いてくる。
ロイターは「透析・手術用の医療機器が4〜8月に出荷困難の可能性」とまで報じている。命の現場すら揺さぶられているのが、今のナフサ危機の現実だ。
なぜこんなことに?──中東情勢と供給網の脆さ
中東地域からの原油・ナフサ調達が不安定化し、スポット市場価格は乱高下。2026年5月時点のナフサ国際価格は1トン827.24ドル(Trading Economics)で、1か月で約18%下落したものの、1年前比ではまだ**+56%高い水準**。乱高下そのものが、計画調達を旨とする製造業には致命傷になる。
電気工事の現場でも、塩ビ電線管、PF管、絶縁テープ、ブレーカー樹脂筐体──ぜんぶナフサ系だ。北海道の現場を回っていても、資材問屋から「次回入荷は未定」「価格は都度見積もり」の連絡が増えている。これはもう他人事じゃない。
現場で今すぐできる「自衛策」3つ
ひとつ、早めの発注と在庫の見える化。在庫アプリやスプレッドシートで品目別に最低在庫を設定するだけでも詰みは回避できる。
ふたつ、代替素材・代替メーカーの確保。樹脂部材は同等品の二系統化が鉄則。
みっつ、価格転嫁の交渉準備。原材料高騰の根拠資料(TDB調査、業界紙)を揃えて、堂々と顧客に説明する。北海道で動くにせよ、本州相手にせよ、根拠ある説明は通る。
備えるなら、今この瞬間から
価格高騰時代の自営業の必読書としては、『中小企業のための原材料高騰対策がよくわかる本』(Amazon)がおすすめだ。
在庫管理を本気でやるなら、小型バーコードリーダー(楽天で見る)を導入するだけで現場が一変する。Excelに繋げばそれで「DX」だ、肩肘張る必要はない。
ナフサは、地味で目立たない。けれど止まれば日本が止まる。「黒衣」が舞台から消える前に、できる手は全部打っておこう。

