2026年2月24日、室蘭市は衝撃の決断を下した。
地域医療の柱として70年以上にわたり市民を支えてきた市立室蘭総合病院が、2027年度をめどに閉院する。
青山剛市長が正式に表明したこのニュースは、道内医療関係者に大きな衝撃を与えた。なぜここまで追い詰められたのか。その背景には、人口崩壊・財政悪化・統合交渉の迷走という三重苦が絡み合っていた。
赤字の実態 — 数字で見る「崩壊の軌跡」
まず直視しなければならないのが、凄まじい財務悪化の速度だ。
2024年度純損失=18.1億円(前年比57.2%増・過去最大)
2025年度決算見込みでは資金不足比率が20%超に達し、病院特別会計として維持限界を超えている。さらに市は2025〜2026年度にかけて一般会計から23億1,800万円(前年比43.2%増) の緊急支援を投入したが、それでも赤字の拡大は止まらなかった。
職員給与を9%削減するという苦渋の合意も結ばれたが、焼け石に水だった。市全体の財政が「財政再生団体」
——いわゆる自治体の財政破綻状態——
転落するリスクが現実味を帯び始め、市長はついに閉院という「見切り発車」の決断に踏み切った。
人口崩壊が根本原因 — 70万人から7万人の衝撃
財務悪化の根っこには、もっと深刻な構造問題がある。
室蘭市の人口は1970年のピーク時に16万2,000人を記録したが、2022年には7万9,090人まで半減以下に落ち込んでいる。患者数は人口に比例して減り続け、病院収入は慢性的に縮小した。
しかも市内には3つの総合病院が並立するという、今の人口規模では明らかに過剰な医療供給体制が続いていた。
- 市立室蘭総合病院(517床)
- 日鋼記念病院(民間)
- 製鉄記念室蘭病院(民間)
人口16万人の時代に設計されたインフラを、7万人の街が維持しようとすれば、どこかが潰れるのは数学的な必然だった。限られた患者を3院で奪い合う構図が慢性赤字を生み出し続けた。
統合交渉8年間の迷走 — なぜ話がまとまらなかったのか
「ならば統合すれば良い」
その答えは簡単には出なかった。
2017年頃から日鋼記念病院との統合交渉が始まり、実に8年間にわたって協議が続いた。 しかし2026年1月、市はついに「日鋼との統合は困難」と判断し、交渉を白紙撤回した。なぜ8年もかかって決裂したのか。
最大の障壁は累積赤字問題だった。民間病院である日鋼記念病院の側からすれば、巨額の赤字を抱えた公立病院を統合することは、自院の経営リスクを丸抱えすることを意味する。ここに2025年末という新たな衝撃が加わった。医療法人「徳洲会」の室蘭進出だ。
「黒船」とも呼ばれた徳洲会の動きで日鋼記念病院の外科医師4名が2026年3月末までに引き揚げる事態が発生し、病院間の力学が一気に複雑化した。日鋼の経営基盤そのものが揺らぎ始め、統合相手として機能しなくなりつつある。
結果として統合先は製鉄記念室蘭病院のみに絞り込まれ、2027年度の機能集約という方針が固まった。
統合後の医療再編マップ
閉院後、西胆振の急性期医療はこう再編される。
- 東室蘭エリア → 製鉄記念室蘭病院が高度急性期・急性期の中核を担う。2026年度から5診療科で常勤医師を増員、2028年10月に新病棟着工予定。
- 蘭西エリア → 日鋼記念病院が地域急性期をカバー(ただし徳洲会問題で先行き不透明)。
- 高度専門医療 → 市立病院が担っていたがん・循環器等の高度急性期機能は製鉄記念に集約。
全国で起きていること — 室蘭は「予告編」に過ぎない
室蘭の問題は北海道の、いや日本全体の地方医療が抱える縮図だ。読売新聞は「3病院の再編協議が8年間難航した」と報じ、東洋経済は「病院淘汰」という特集で都市部・地方を問わず大量閉院・統合が加速していると指摘している。
少子高齢化、人口流出、医師偏在——この三つが重なる地方都市において、複数の病院が競合する体制はもはや持続不可能だ。室蘭は日本の地方医療の「10年後の現実」を今、目の前で体験している。



