「違法判決」という4文字が世界を駆け巡った2026年2月20日。しかしその翌日から、より現実的で複雑な問いが浮かび上がってきました。
「では、すでに払った関税は返ってくるのか?」
答えは単純ではありません。1,750億ドル(約27兆円)超という天文学的な返還額、世界1,000社超の企業訴訟、そして日本企業9社による対米提訴——この「返金ラッシュ」の現実を、日本企業への影響シナリオとともに整理します。
株式投資を学ぶならファイナンシャルアカデミー返還額はいくらか──27兆円という現実
ロイター通信の試算によれば、今回の最高裁判決で違法とされた関税に絡む返還総額は1,750億ドル超(約27兆円)に上る可能性があります(Reuters、2026年2月20日)。
ただし、この数字はあくまで上限の推計値です。実際の返還対象となるのは、IEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠に課された相互関税とフェンタニル関連の関税に限られます。鉄鋼・アルミ関税(通商拡大法232条)や対中制裁関税(通商法301条)はIEEPAとは別の根拠に基づくため、今回の判決の対象外です。
つまり「27兆円全額が返ってくる」わけではなく、企業ごとに何の関税をいつ払ったかによって、返還額は大きく異なります。
1,000社超が訴訟──日系企業9社も名を連ねる
最高裁判決を見越して、すでに世界中で関税返還を求める訴訟が相次いでいます。関税返還を求める訴訟件数は約900件、関係企業は1,000社超に上ります(時事通信、2026年1月8日)。
その中に日本企業の名前もあります。2025年11月から12月にかけて、
住友化学・豊田通商・リコー・カワサキモータース
など日系企業少なくとも9社が、米国現地法人を通じてトランプ政権を提訴しました(NHK・朝日新聞・FNN、2025年12月3日)。
訴状の中で原告側は「連邦最高裁が違法と判断しても、関税が自動的に返還される保証はない」として、権利保全のための提訴であることを明示しています(OANDA証券、2025年12月)。実際、米国では輸入企業が最初に支払う関税は「暫定支払い」扱いのため、判決後も還付手続きを経なければ返金されません。
日本企業が受けた打撃の実態
そもそも今回の返還問題が注目される背景には、日本企業が支払ってきた関税コストの莫大さがあります。
読売新聞の集計によれば、トヨタ・ホンダ・日産など自動車大手7社は、関税の影響により2025年4〜9月の半年間だけで営業利益が計約1.5兆円も押し下げられました(読売新聞、2026年1月19日)。日経新聞は主要上場35社の2026年3月期の関税減益影響を計2.6兆円と試算し、そのうち約7割を自動車セクターが占めるとしています(日経新聞、2025年5月)。
個別では、トヨタが関税影響額を1兆4,000億円と試算して業績を下方修正(テレ朝NEWS)、三菱自動車は関税と円高の影響で2025年4〜6月期の純利益が前年比97.5%減という壊滅的な数字を叩き出しました(テレ朝NEWS)。
これだけの打撃を受けてきた企業にとって、返還が実現すれば業績の大幅な上方修正につながる可能性があります。
衝撃シナリオ①──返還が実現した場合
返還が順調に進んだ場合、日本の輸出企業には複数のプラス効果が生まれます。まず業績の一時的な大幅改善として、関税分のコストが特別利益として計上される可能性があります。特に自動車・電機・精密機器セクターの業績上方修正が相次ぎ、株価の押し上げ要因となります。次に価格競争力の回復として、対米輸出コストが実質的に低下し、現地での販売価格の引き下げや販促強化が可能になります。さらに設備投資の再加速として、関税コストで凍結されていた対米投資・工場建設などの計画が再始動するきっかけになり得ます。
衝撃シナリオ②──返還が遅延・縮小した場合
問題は「判決=即返金」ではないことです。米国の税関(CBP)が1,000社超の還付請求を処理するには相当の時間がかかります。さらにトランプ政権は30日以内の上訴を宣言しており、上訴審で結論が覆る可能性もゼロではありません。
返還が遅延または縮小した場合、企業は不確実性の中での計画立案を強いられます。「返ってくるかもしれないが、いつ返ってくるかわからない」という状態では、業績予想に組み込めず、投資判断も難しくなります。また、議会がIEEPAを改正して新たな関税権限を大統領に付与する法案を通過させた場合、判決の効力が実質的に無力化されるリスクもあります。
衝撃シナリオ③──日米通商協議への波及
今回の判決が最も長期的に影響するのは、日米通商協議の枠組みかもしれません。
2025年8月に合意した日米間の相互関税は15%でした(当初は24%から引き下げ)。この15%関税の法的根拠もIEEPAに基づくため、今回の判決によって無効化される可能性があります。そうなれば日米間の関税率は事実上ゼロに近づく一方、日本が約束した5,500億ドルの対米投資イニシアティブの位置付けが宙に浮くことになります(東洋経済、2025年11月)。
通商協議の再交渉を迫られる可能性があり、その過程で新たな関税や非関税障壁が生まれるリスクも否定できません。
個人投資家として今見るべき銘柄の方向性
返還シナリオが現実になった場合、注目セクターと方向性として、自動車株(トヨタ・ホンダ・スバル)は関税コスト減・返還益の両面から最も恩恵が大きく、上方修正期待が高まります。電機・精密機器(ソニー・キヤノン)は対米輸出コスト低下により輸出採算の改善が見込まれます。総合商社(豊田通商・住友化学関連)は訴訟当事者として直接の返還益が期待できます。一方、円高が進行した場合には輸出株全体のマイナス要因となるため、為替の動向と合わせてウォッチすることが重要です。
まとめ:「判決=解決」ではない
最高裁の違法判決は確かに歴史的な出来事です。しかし日本企業にとって「27兆円が返ってくる」という単純な話ではありません。上訴・議会対応・還付手続きの長期化という三つの壁が立ちはだかり、実際の返還が完了するまでには相当の時間がかかると見るべきです。
重要なのは、この「不確実性の時間」をどう読み、どう動くかです。情報を素早くキャッチし、セクターごとの影響を見極めながら、冷静に判断することが求められます。
参考・引用元
| # | 媒体・機関 | 記事・資料名 | 掲載日 |
|---|---|---|---|
| 1 | Reuters(ロイター) | 「トランプ緊急関税、最高裁が違法判決なら1750億ドル超返還へ」 | 2026年2月20日 |
| 2 | TNC(テレビ西日本) | 「米最高裁、トランプ関税は『違法』一部失効へ還付要求で混乱も」 | 2026年2月20日 |
| 3 | 時事通信 | 「トランプ関税返還求め提訴900件=日本企業も、最高裁判断控え」 | 2026年1月8日 |
| 4 | NHKニュース | 「米発動の相互関税『違法なら返還を』日系企業が提訴」 | 2025年12月3日 |
| 5 | 朝日新聞 | 「『トランプ関税は返還を』日本企業も米政府提訴 豊田通商や住友化学」 | 2025年12月3日 |
| 6 | FNN | 「日系企業9社がトランプ追加関税めぐり提訴」 | 2025年12月3日 |
| 7 | 日本経済新聞 | 「米関税、車に1.7兆円打撃 電機や機械も影響大きく」 | 2025年5月15日 |
| 8 | 読売新聞 | 「トランプ関税、日本企業への影響甚大…自動車大手7社の利益は半年で約1.5兆円減」 | 2026年1月19日 |
| 9 | テレ朝NEWS | 「トヨタ自動車 今年度業績を下方修正 トランプ関税の影響は1.4兆円」 | 2025年 |
| 10 | テレ朝NEWS | 「三菱自動車 97%超の減益 トランプ関税と円高が影響」 | 2025年 |
| 11 | OANDA証券 | 「日系企業9社、米関税巡り提訴」 | 2025年12月2日 |
| 12 | NRI(野村総合研究所) | 「米最高裁が相互関税に違法判決を下せば、トランプ関税策は後退へ」 | 2025年12月24日 |
| 13 | 東洋経済オンライン | 「米最高裁が『トランプ関税』にまさかの『違憲判決』を下す日」 | 2025年11月22日 |
| 14 | JETRO | 「トランプ関税始動から1年、米国の貿易の変化をみる」 | 2026年2月17日 |
| 15 | global-scm.com | 「相互関税 裁判の最新ニュース(2026年2月18日時点)」 | 2026年2月18日 |


